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麹菌体のエネルギー・チャージ

[目的]

エネルギー・チャージとは麹菌体内のアデニンヌクレオチドのリン酸化割合を表しており、一般的にエネルギー・チャージの値が高いほど菌体内の代謝活動が活発と言われている。原料処理時の蒸米の初発水分及び、麹中の水分量の減少といった工程中の条件を変えた場合における製麹中のエネルギー・チャージの変化を調べ、製麹工程中における麹菌体の代謝活性の指標となり得るかについて検討した。

[製麹条件]

米はいずれも60%精米の山田錦を用いた。
吸水率は30~39%で変化させた。
種麹はいずれも、RIB128株を約1×105個/g用いた。
製麹中の温度及び湿度は、①総破精条件では通常の総破精麹となるように温度、湿度ともに経時的に変化させた。②実験室条件では35℃、90%RH湿度の一定条件で培養した。
手入れはいずれも20時間(盛)、28時間(仲仕事)、38時間(仕舞仕事)でそれぞれ行った。

[実験方法]

麹からアデニンヌクレオチド(AMP,ADP,ATP)を過塩素酸で抽出して、それぞれ高速液体クロマトグラフィーで定量した。

[結果・考察]

麹菌体量当たりのATP量とは異なり、製麹条件を変えることで麹菌体のエネルギー・チャージも変化し、以下のような特徴がみられた。
蒸米の初発水分が低いほど、エネルギー・チャージの減少は抑えられる。
製麹中において湿度を減少させ、麹中の水分が減少させた方が、エネルギー・チャージの減少は抑えられる。
これらのエネルギー・チャージの減少を抑える条件は、従来の経験的に良い麹を作る条件と一致している。
以上のことから、エネルギー・チャージが麹菌体の代謝活性の指標となりうること、また、エネルギー・チャージを高く保つことが一般的に望まれる品質の麹の製造に繋がることが示唆された。

図1 製麹条件の吸水率の範囲で製麹した場合
図2 実験室条件(温度一定、湿度一定)で製麹条件の吸水率の範囲で製麹した場合